自立支援介護11ヵ条
- 自立支援介護第9条
- 部屋から出て夢中になれることをする
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ある利用者様の朝は、早起きして食堂にこられ、食事のときの“おしぼり”を巻くことからはじまります。これは寿楽荘の伝統的なもので、代々利用者様から引き継がれている光景です。また、ある方は昼食前になるとお米とぎから始まり、次は職員が運んできた大量の洗濯物を見て「○○さん、洗濯物がきたよ」と仲良しの友達に声をかけると、一緒に当たり前のように洗濯だたみがはじまります。どなたも誇りをもって仕事をされている方たちばかりです。
しかし、自主的にしてくださるばかりではないのが現実。そこで私たちは夢中になれることを探すために「夢中になれることは何!?」探索支援チームを発足し、センター方式を基にアセスメント表をつくりました。その方が夢中になり、心が動いて自然と体が動くようなことを探すために、ひたすらその方の話に耳を傾け、それをまとめてアセスメント表を完成させました。すると、わかっているつもりだったけれど、とても思いが強かったこと、思いがけない一面やその人の個性が見えてきたのです。ある方は「なじみの市場に行きたい」とおっしゃいました。
理由は「ここに来てから行ってないから、みんな私が死んだと思っている。私が生きていることをみんなに知らせたい。」という思いからでした。早速、その市場に行くことにしました。市場に近づくと「ここ、ここや」と足早になり、なじみの服屋の奥さんを見つけると「私、あんたに会いにきたんやで!」と目を輝かせ、生きいきとされ、思いが溢れ出し、話は止まりません。店を出ると知り合いにもばったり再会し「久しぶりやねー!」と話が弾み、楽しい時間を過ごされました。この方は長年やってこられた家事にも自信を持っておられ、職員の声かけと少しの援助でキッチンに溜まった洗い物を「よっしゃ!やったるで!」と頼もしい言葉で片付けてくださり、たくさんの洗濯物も他の利用者様の方と一緒に話しながらテキパキとたたんでくださいます。取り組みの前は、ひとつのことにこだわり不穏になることや、何もすることがなくテーブルに伏しておられることが多かったのですが、それもずいぶん減りました。
「普通の生活」や「利用者の満足」とは、時間になると勝手に食事が運ばれてきたり、お客様扱いすることではないと援助を通して改めて実感しました。ついこの間も、別の方ですが「りんごをむいてください」とお願いすると「何人に分けるの?」と聞かれ、人数分のきれいなお皿を用意すると、「お客さんかね?」とうさぎの耳の形にしてくださいました。
職員の少しの配慮と気づきで、利用者様の自然の姿がどんどん溢れ出してくるのだと感じ、嬉しく思いました。これからも「夢中になれること」を1つずつ発見して援助することで、「生活に役割・予定・目標・楽しみ」をコンセプトとして自立支援につなげていき、少しでも潤いある生活を利用者様と共に送っていきたいと思います。
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